適応障害とは?
適応障害とは、何らかのストレスから環境への適応が難しくなってしまう状況で、社会生活に支障が出るような心身の症状がみられる病気です。
症状
適応障害の症状は、個人の性格や環境、受けているストレスなどによっても異なります。大きく分けると、心に症状がみられる場合と、体に症状がみられる場合、行動面の症状としてみられる場合に分けられます。この中の1つのみ症状が現れる場合もありますし、これらが混在して現れる場合もあります。心の症状では、緊張や不安、憂うつな気分、涙もろい、意欲がなくなる、イライラ等がみられ、体の症状では、倦怠感やめまい、動悸、頭痛、腹痛、手足のしびれ、下痢、食欲低下、不眠等がみられます。また、行動の症状では、暴飲暴食、目的と手段がちぐはぐとなった行動、無断欠勤、周囲との口論を含む諍い(いさかい)が増える等の普段と異なる様子がみられることがあります。多くの場合、ストレスから離れると症状が緩和されます。例えば、仕事がストレスになっている方は、平日に憂うつな気分が続くけれど休日は憂うつな気分は軽減されます。ストレスが解消された際は、半年ほどで症状の改善がみられるのも適応障害の特徴になります。
うつ病との違いは何か
典型的な適応障害は、ストレスから離れることによって症状が軽くなります。しかしそれにより逆に、自分の行動に罪悪感を持つことが少なくなって攻撃的な言動などがみられる場合もあります。一方、うつ病ではストレスとなっているものがはっきりしない場合や、ストレス環境から離れても、症状はさほど軽減しないという違いがあります。また、しかしうつ病にせよ、適応障害であってもストレスから離れられないと無気力な状態が続いたり、必要以上に自分を責めてしまうこともあります。さらには、自分は取り返しのつかないことをしてしまったという誤った考えが修正できなくなるまでに発展する場合もあります。適応障害とうつ病はその症状が似ているため、鑑別が難しい場合もあります。これらから、適応障害と診断された後に、治療経過を見てうつ病と診断が変更される場合もあります。
どのような人がなりやすいか
下記の項目に、当てはまるような方がなりやすい傾向があります。
- 責任感が強くて何事も真面目に取り組む
- ◯◯すべきという傾向があり融通がきかない
- 他者からの評価が気になってしまう
- 我慢しやすい、ストレスを発散する方法が少ない
- 繊細、かつ敏感である
- 人から頼まれたら断りにくい
- 相談できるような相手があまりいない
- 人の気持ちや周りの状況を上手につかみにくい
適応障害かもしれないと思ったら
1人で抱え込まないことが大切になります。長期的に、ストレスに適応できない状況が続くと、生活面全般に病状が影響してしまい、結果として大きな問題と至る場合もあります。まずは、周囲の方に相談してみましょう。相談しても上手くいかなかったり、相談できるような方がいなかったりする場合は医療機関への受診を考えてみましょう。
環境調整
休職
仕事や職場が適応障害の原因となっている場合、一定期間職場から離れることで症状の改善が見られることがあります。ただし、休職期間期間に関しては、1~2日などの短期間ではなく、1か月単位での休職が必要な場合が大半です。復職のタイミングや復職時に注意するべきことに関しては、診察時に相談しながら少しずつ進めていくと、うまくいきやすくなります。また、休職後の復職に不安がある場合も、お気軽にご相談ください。
部署の異動
休職までいかなくても、職場相談の上で、部署を変えてもらうことで、環境(仕事内容・人間関係)が変わることで、症状に改善が見られることがあります。実際に部署の異動が可能かどうかは、その方が勤められている会社・組織の事情によります。病状が顕著な場合はこうしたことで逆に不安や焦りを引き起こすなど、病状への影響がある場合もあるために、勤務先の上司や人事部への相談時期なども併せて医師ともご相談ください。
退職・転職
休職や部署の異動でも症状に改善が見られない場合、現在お勤めの会社で働き続けることは難しいかもしれません。例えばスポーツ関連、芸術関連あるいは研究・学術関連といったプロのお仕事で求められる【知識・スキル・実務への取り組み方・仕事の進め方】は全く違うだろうことは容易に想像できることだと思います。しかし、同じ職域の中でも、担当する業務によって求められるものは少しずつ異なります。例えば、スポーツでも、選手・コーチ・監督の仕事は異なりますし、芸術関連でも複数名で取り掛かかる仕事などとなれば、作品を生み出す方、その作品を作るための材料・物品を準備される方、作品の発表の場を整える方は異なる場合はあると思います。すなわち、同じ職域のお仕事でも業務内容は大きく異なるはずですが、就業時に希望職域があったとしても、実務のすべてを詳細に把握(説明を受ける)ことは現実的には難しいでしょう。そのため、多くの場合はオリエンテーションを経て実務の現場に出て、そこで実務詳細を把握していかれる方がほとんどではないでしょうか?さらに、そこで仕事を続けているうちに、やり甲斐や現場の苦労なども初めてわかっていくのが最も一般的ではないかと思います。一方で、雇用者側の立場としても、契約がまだない方にすべての業務を公開・説明することはできません。そのためこれから現場で働こうとされる方と雇用者側の思惑の間の、ミスマッチを完全に無くすことは非常に難しく、どこかで折り合いをつけることが、働く方全てに求められることと思います。しかし、これらミスマッチの解消・折り合いをつけることがどうしても難しい場合もあります。
こうした際には、退職・転職をされて新しい道で生活されることも選択肢の一つかもしれません。ただし、その場合、体調の悪い時に、ご自身だけの判断や思い付きだけで決断されることはお勧めできません。ご家族・ご親族など本当に信頼できる方とよく話を相談をしながら、主治医とも話し合いを重ねる中で、新たな道のメリット・デメリットを十分把握していただいた上で方針を決めていただくことを推奨します。
- 適応障害の環境的ストレスには、昇進、進級、進学、さらには結婚・出産、引っ越しなど御本人が納得して望んだ環境変化であっても、これが引き金となることもあることが知られています。周囲から見て、「おめでたいこと」、「名誉なこと」と思われることでも、これら環境変化がストレスとして作用する場合があります。振り返って考えるとここが発症の契機だったと、病状が改善して、振り返っておっしゃる方も珍しくありません。「御本人の事前イメージ・実際の環境変化そして、環境の変化後のご本人の感じられ方・とらえ方」これらにミスマッチが起こること、これが問題の本質の一側面とも言えます。
- 適応障害に限った話ではありませんが、その方の支援者である周囲の方の疾病理解が大変重要です。心情的には「そんなことを言ったって…あなたの希望だったでしょう?」「誰でもそれくらいの経験はあったりするものだよ…」と言ったことを周囲の方が思われる場合がある…、そのような状況は心情的に理解できます、こうした思いから本人を叱咤激励を続けてしまうことは、状況によっては望ましくありません。医師から療養を要しますと言われたことに対しても、患者さんは不安や焦りあるいは、「何か悪いことをしているのではないか」と考えられてしまうことさえもあります。
- しかし例えば、整形外科で「骨折をしているから、安静に」と言われた場合、多くの方はこの「安静の必要性」というのを理解していただけると思います。適応障害も、休息が必要と判断される場合、医師からの療養としての指示で「しっかり休息を心掛けるよう」という話の真意は同じです。ストレスは脳内に微小な炎症を起こすという近年発表された、研究結果もあり、気合・根性論だけで何とかなる問題ではありません。患者さんご本人は直前まで学校・職場に在籍をされていたわけですから、ご本人はその復帰をとかく焦りやすい気持ちも分かります。が、周囲支援者の方も一緒に焦ってしまうと、あまりいいことはありません。‘患者さんは不調となるまで、走ってしまったんだ‘と冷静な理解を心掛けることがとても重要です。また、「現実に心身の変調が発生している」という事実を受け止め、ご本人がしっかり休んでいただける環境作りはとても重要となります。